8. 素晴らしき哉“デザイン的人生”

8-2.デザインで人生を心豊かに!

「デザイン・マネジメント」、という言葉をご存じだろうか。1980年代後半から提唱されてきた概念だが、私なりの考えを述べてみたい。「デザイン」と「マネジメント」が連結してできたこの「デザイン・マネジメント」、2通りの意味をもっていると見る。「デザイン」についてはすでに述べた。「マネジメント」は広辞苑によると、経営、管理、などの意味をもつとしている。

「経営」にはもともと、工夫を凝らして建物のような大きなものをつくり上げるという創造的意味があるが、「管理」は、管轄し保持するという保守的意味合いが強い。「デザイン・マネジメント」は一般的には後者の意味を用い、「デザインを管理すること」とされ、デザインは管理される側に位置づけられている。

一方、私の考える「デザイン・マネジメント」は、「経営をデザインすること」というところに軸足を置く。つまり、デザインを経営の形態やプロセスを決定する地位に置くという解釈である。長年製品開発に関わり、商品力、ことにデザイン力で経営を支えてきたと考える私が、マネジメントを「経営」という意味に捉えるようになったからだ。

商品のデザインは、単にモノの形だけを描くのではなく、その有用性を活かすように、一歩進んだところで描く必要がある。商品が使い手にとって、使いやすいものであるという実用的機能面での価値に加えて、見た目の美しさや雰囲気の良さ、商品のもつ魅力といったデザインによる価値が付加されなければならない。これが、消費者に訴える「情報価値」となる部分であるからだ。

さらには、商品によって引き起こされ得る、世の中の様々な「こと(でき事)」をデザインしていかなければならない。「こと」の時代と言われる今日、デザインは、出し手と受け手との接点に位置して魅力を創造する役目を担う。

粘菌学者・南方熊楠は明治のころすでに、「『もの』と『こころ』がつくり出す、『こと』という『不思議な世界』がある」と言っている。「こと」とは、人が「もの」を手にしたり使ったりすることで、「面白い」とか「楽しい」と感じる「こころ」の状態を指す。

こうした幸福感が得られるような商品の具現化には、デザイナーが得意とする「可視化能力(文字、スケッチ、モデルなど)」や、「総合化能力(さまざまな部署との調整やリーダーシップなど)」が大いに力を発揮する。デザイナーが、「デザイン・マネジメント」の主役になれる理由は、ここにある。 またこうした時代には、人々がこの「こと」から、幸福感を得られるようなモノが良い「商品」となる。

「経営」と並んで使われる言葉に「経済」がある。学術的ではないかもしれが、私は、経営はお金をたくさん稼ぐ仕事、経済はお金を上手に使う仕事、だと考えている。昔風に言うと、家庭にたとえれば、経営は旦那さん、経済は奥さん、ということになり、企業で言うならホンダの場合、名コンビと言われた社長の本田宗一郎と女房役の副社長の藤沢武夫、ということになろう。

両方揃って、うまく機能しないと破綻する。今のような共稼ぎの場合、お互い相当うまくやらないと大変なことになる。我が家は、手分けタイプでうまくやってきた。娘たちは家庭をもって、共稼ぎで、何とかうまくやっているようであるが……

この「経済(エコノミー)」、もとはギリシャ語の「オイコス」からきている。「家政」と訳される場合が多い。私たちの学生時代には、女子大では家政学科が主流であった。が、今は、めっぽう少なくなったようだ。家政婦などと、あまりいいいイメージに受け取られていないのと、家の中に閉じ込められ感もあって、若い女性には響きのいい言葉ではないのかもしれない。でも私は、家庭をデザインするための「要」となる役割だと思っている。