9. おわりに

9.おわりに

読み終えられて、「自分にも、デザインができそうだ」と、思えるようになっていただけたろうか。「自分を、いい大人にデザインしてみよう!」、そう思っていただくことを本書の目標とした。自分をデザインすることが、家庭を、地域や企業を、さらには国を地球を良くすることに繋がるということも。

私自身、仕事では、企業の商品づくりとして自動車デザインに関わった。スタッフデザイナー、チーフデザイナー、そしてディレクターとしてデザイン室の総括、プロデューサーとして商品担当役員を経験した。同じデザインの世界でも置かれている立場によって、同じデザインという活動の中でも、考える内容や領域、レベルの違うことを学ぶことができた。

さらにそうした経験を、教育の場で若い人に伝える難しさ、博士号取得のために、私なりのデザイン・マネジメント論を打ち立てることの難しさも味わった。また同時に、生活者の一人として、自分自身をデザインし、家内と共に家庭をデザインし、子供たちとともに地域との交流を深める中で、ひょっとして、いや間違いなく私は、家内にデザインされているのではないかと思うようになった。これを書く動機となったのはこうしたところにある。

この「デザインのすすめ」は、私自身が博士号(経営学)を取るために書いた『ホンダにみるデザイン・マネジメントの進化』(税務経理協会刊、2003年)、学生たちの講義用に書いた『デザイン「こと」始め-ホンダに学ぶ-』(産能大学出版部刊、2004年)。企業の経営者や管理者のために書いた『ホンダのデザイン戦略経営』(日本経済新聞社刊、 2005年 )、若いビジネスマンに向けて書いた『本田宗一郎に一番叱られた男の「本田語録」』(三笠書房、2005年)と、それをもとに文庫化した『本田宗一郎「一流の仕事」ができる人』(三笠書房、2012年)、さらには、エンジニアへの啓蒙のために書いた『かたちはこころ-本田宗一郎直伝 モノづくり哲学-』(JIPMソリューション刊、 2008年)、大学教育に関わる人のために書いた『教育現場でのデザイン・マネジメント』(実業之日本社刊、 2010年)、またその後に上梓した『1分間本田宗一郎』 (ソフトバンククリエイティブ社、2013年) などをもとに、新しく書き下ろしたものと合わせ、幅広い生活者に向けて新たに編集したものである。

一般的に人の一生は、「子供、大人,老人」と分けられている。老人は65歳からということになっているようだから、私はすでに10年以上老人を生きていることになる。大人である期間は長い。この間私は、“デザインこころ”を持ち、“デザインちから”を信じて、如何にして生きてきたかを、いろんな角度から述べてきたつもりだ。みなさんの心に届き、お役に立てていただければと願いながら筆を置きたい。

編集に当たっては多くの方々に、大変なお力添えをいただいた。心からお礼を申し上げたい。そして最後に、長らくお付き合いいただいた読者のみなさんに心からお礼を申し上げる。

と、ともに、デザインを天職にできた幸運を喜びたい。

                             

2016年11月28日 岩倉 信弥