21世紀に入った2001年、多摩美術大学のプロダクトデザイン専攻を与かり、まず驚いたことは、女性の先生が一人もいないということ。それ故か、女子学生も1割に満たない状況だった。
一口にプロダクトデザインと言っても、白物と言われる家庭用電化製品から私の専門としてきた自動車、そしてテレビやオーディオ音響製品、パソコンや携帯電話などのITプロダクツ、カトラリーやテーブルセット、ガラス・陶磁・金属の器など、さらにはメガネやアクセサリーなどのボディウエア、化粧品などのパッケージ、アンダーウエアやスポーツウエアなどと領域は年々に広がっていた。
おんな先生探しが始まる。ついに2005年、ガラス・陶磁・金属の器やアクセサリーなどを得意として、ヨーロッパ留学を経験した40歳前の女性デザイナーが来た。女子学生が喜んだのはもちろん、男子学生の中にも待ち望んでいた連中が多くいたことも驚きであった。新しい指導方法も持ち込まれ、学生にとっては思いのほか厳しい先生であったが人気は上々。
続いて、男子顔まけのケイタイや電子機器などのデザインで有名な先生、色彩学の先生、鞄のデザインではピカイチの先生など、毎年一人ずつおんな先生を増やしていった。そして2008年、ステーショナリーを得意とするおんな先生を常勤として迎えることができた。
そもそも、「プロダクトデザインとは、空を飛ぶものから身の回りのものまで、人々の生活をこころ豊かにするために必要な、すべての『モノ』や『こと』がもつ機能を『かたち』にする行為、およびその結果をいう」と自ら定義したわけだから、守備範囲が広がっても不思議はない。
「人々の生活を心豊かに」となると、世の中は男女の数はほぼ同じ、しかも今は、家庭生活も男女が平等に分担する傾向にある。このような状況から押して男女同数のデザイナーがいて当りまえ、領域が広がったプロダクトデザインを専攻する学生も、男女が同数いるのがむしろ自然と言うものだ。
昨今、男性デザイナーの得意としてきた自動車、オーディオ音響製品、パソコンや携帯電話にも女性デザイナーの進出はあるし、女性デザイナーが得意とされてきたカトラリーやテーブルセット、さまざまな器やアクセサリーなどに男性デザイナーの活躍が多く見られる。男女の能力がクロスオーバーする時代でもある。
脳科学者の黒川伊保子さんは講演のなかで、男性と女性の脳の違いについて述べている。男性と女性では、「脳」の構造に違いがあるらしい。人には右脳と左脳をつなぐ「脳梁」というものがあり、女性の方が男性よりも二割がた太いという。したがって女性の脳は、男性より左右の脳の連携が良いとのこと。
男女とも共通して言えるのは、左右それぞれの目で見た情報は、右目は左脳に左目は右脳にというぐあいに情報(映像)を送り、その二つが合体して一つの映像になり、そこではじめて距離感(奥行き)がつかめるのだそうだ。
女性の脳は、左右の脳の連携が良いので、左右それぞれの目から入った映像のブレを感知する前に映像化されてしまう。したがって映像が平面的になりやすく、遠くより手前にあるものほど興味がわく。
逆に男性は、左右の連携が鈍いので、映像のブレには敏感で距離感や奥行きに強く、そのため空間認識に優れ立体的形状を好み、近くより遠くのものに興味をもつようだ。
それに加え女性の脳は、「長軸索」という距離の遠いふたつ以上の脳神経細胞を繋ぐ役目を果たす神経が活発に働き、距離の遠い神経細胞同士を繋げて組み合わせ複雑な認識をさせる。したがって複雑で紆余曲折のあることや、意外性がありドラマティックなことを好むのだという。
逆に男性の脳は、「短軸索」という距離の近い 二つ以上の脳神経細胞を繋ぐ神経が活発に働き、単純で簡潔なことや拙速を好むという。だから、合理的なもの、整然としたもの、無機的で直線的なもの、論理的なこと、明確さや権威的なものを好むのだそうだ。
そして女性は、右脳(感性)と左脳(理性)が頻繁に連携されるので、感じたことを言語化するのが得意だという。という訳で男性と女性は、脳の仕組みの違いでものの判断や思考のプロセスが大きく違うらしい。
男と女、こんなに違うのかと思うと同時に、この違いを活かせば、職場や家庭のデザインはさらに豊かなものになるだろう。男女平等とは、お互いの違いを認め合うことなのだ。